「どのカメラも綺麗に写るから、同じに見える」——藤岡亜弥さんのトークを聴いて
薹が立ったリーフレタスの花。葉を食べる野菜が、収穫の時期を過ぎて種へと向かっていく。手前はふわりと柔らかい——狙って整えたのではなく、そこに立ち会った一枚。(撮影:筆者)
昨日、写真家・藤岡亜弥さんのトークイベントに参加してきた。聴き終えたいまも、いくつかの言葉が体のなかで反響し続けている。忘れないうちに、そして自分自身の写真のためにも、書き留めておきたい。
いちばん驚いた一言
会場で藤岡さんが口にされた言葉のなかで、私がいちばん驚いたのはこれだった。
「今のカメラはどれも綺麗に写るから、どれも同じように見える」
写真家がこう言う。逆説のようでいて、聴けば聴くほど腑に落ちる指摘だった。技術が行き渡り、誰が撮っても破綻なく美しく写せるようになった。だとすれば、”綺麗さ” はもう写真を差別化する基準ではなくなっている。カメラが技術的な部分をぜんぶ引き受けてくれる時代に、それでもなお写真に残るものがあるとしたら、それはレンズのこちら側にいる人間が何を見て、その一瞬にどう反応したか、でしかない。
その証明のように、広島を撮った写真集『川はゆく』には、ピントの合っていない写真も収められているのだという。整いすぎた画面からこぼれ落ちてしまう気配を、あえてそのまま掬い取ろうとしたのだと私は受け取った。上手さではなく、立ち会ったことの手触り。それがこの写真集の強さなのだと思う。
一冊で三つの賞、という稀なこと
そしてもうひとつ知って驚いたのは、この『川はゆく』が三つもの賞を受賞しているということだった。調べてみると、2016年度の第41回伊奈信男賞、2018年に第27回林忠彦賞、そして同じく2018年に第43回木村伊兵衛写真賞。いずれも日本の写真賞のなかでも特に重みのあるもので、なかでも木村伊兵衛写真賞は「写真界の芥川賞」とも呼ばれる登竜門だ。一冊の写真集でこの三賞を射止めた写真家は、ほかにそういないという。
ピントの緩みを残した写真集が、である。ここに、さっきの一言がまっすぐ効いてくる。見栄えの操作では差がつかない時代に、審査員たちが評価したのは技術ではなく、藤岡さんがどう広島を見て、そこにどう生きたか、だったのではないか。
撮るために生きるのではなく、生きた結果として写る
トークを通じていちばん心に残ったのは、藤岡さんの写真が「作品を作るために撮られた」ものではない、という点だった。台湾に語学留学し、ヨーロッパを旅し、ニューヨークに長く滞在し、そして故郷の広島に戻って暮らす。どれも「撮影のために出かけた」のではなく、まずそこに生活があって、その時間の澱のように写真が残っていった——そういう順序に見えた。だから観光者の目線ではなく、住む者の目線になる。
写真作家というのは、自分の生き様を表現することなのだ。私はそう感じた。作品のための人生ではなく、人生の副産物としての作品。前者だと、どこかで生活が撮影の道具になってしまう。でも藤岡さんの場合は逆で、生活そのものが目的で、写真はそこに誠実に立ち会った痕跡になっている。だから見る側も、構図の巧みさより先に、その人がそこに確かにいた、という手応えを受け取るのだと思う。
自分のことに引きつけて
私が写真を始めたのは大学1年生のときだった。昨年から写真家を目指して発表の機会を増やし、今年からは写真作家を目指している。写真家と写真作家。この二つを分けて考えるようになったこと自体が、昨日のトークとまっすぐつながっていた気がする。一枚の上手さではなく、作品という単位で、自分がどう世界を見て、どう生きているかを差し出す人。そこへ踏み出したいと思っている。
いま私がレンズを向けているのは、長年続けている自然農での野菜作りだ。耕さず、肥料も農薬も極力使わず、その土地の力と草や虫の関係に委ねていく。人が作るというより、なるようにさせて立ち会う営み。それは藤岡さんが広島を淡々と撮り続けた姿勢と、どこか似ている気がする。作為で作り込むのではなく、長い時間そこに居続けて、生まれてくるものを受け取る。
私はいつも、「ただの野菜の写真に見えないように」と考えながらシャッターを切っている。けれど昨日のトークを聴いて、少し考えが変わった。ただの野菜写真と作品を分けるのは、野菜そのものの写り方ではなく、その一枚がどれだけの時間と関係を背負っているかなのだろう。土のついた手、朝の斜めの光、虫食いの跡、隣で枯れていく別の株、種を採って翌年また蒔くまでの循環。作品性は “狙って足す” ものではなく、自然農が結果として実りをもたらすように、誠実な時間の積み重ねから滲み出てくるものなのかもしれない。
綺麗に写るのが当たり前になった時代に、それでも自分の写真であるために。答えはたぶん、カメラの側ではなく、私がどう生きるかの側にある。藤岡さんのトークは、そのことを静かに、しかし確かに教えてくれた。
藤岡亜弥さんinstagram : https://www.instagram.com/aya_fujioka/


