十月のル・マルシェに、房のついたままのムクナ豆を持っていった。
京都の日仏学館の中庭で、月に一度ひらかれるマルシェだ。こだわりの品を求めて、京都に暮らすフランスの人たちがたくさんやってくる。その日は、持っていった野菜がすべて売れた。そして、ムクナ豆もよく売れた。
まず、黒いビロードの房に、誰もが尋ねてくる。
試食をすると、「美味しい」と一言。他では買うことができない貴重な豆だと伝えると、たいていの人が買っていく。
そう聞かれるのも無理はない。生のムクナ豆は、ほとんど売られていないからだ。
ほとんど出回らない、「生」のムクナ豆
ムクナ豆という名前を、健康食品として聞いたことがある人はいるかもしれない。けれど、出回っているのは、その多くが乾燥させた豆か、焙煎して粉にしたものだ。
生のムクナ豆を収穫できるのは、十月の中旬から十一月の末頃まで。それを過ぎると、豆はさやの中で乾燥していく。生で味わえるのは、一年のうち、ほんのひと月半ほどしかない。
生のムクナ豆を食べられるのは、自分で育てている人か、畑から直接届く場所で出会えた人だけ。それが、マルシェで房付きの豆が珍しがられた理由だ。
遠い国の豆であり、昔の日本の豆でもある
ムクナ豆には、ドーパミンのもとになる「L-ドーパ」という成分が、豊富に含まれている。
インドやスリランカに伝わる伝統医学、アーユルヴェーダでは、ムクナ豆は心身を若々しく保つ豆として、古くから重んじられてきた。いまでも「若返りの豆」と呼ばれることがあるのは、そのためだ。
ただ、ムクナ豆は遠い国だけの豆ではない。日本でも「八升豆(はっしょうまめ)」の名で、昔から育てられてきた。江戸時代の『和漢三才図会』や『大和本草』といった書物にも、この豆のことが記されている。
名前の由来には諸説あるが、八升も採れるほど実りが多いから、というのがよく知られた説だ。植物学者の牧野富太郎も、手紙のなかで「たくさん収穫できるという意味だろう」と書き残している。それだけ実りの多い豆を、昔の人は畑の片隅で育て、種を採り、次の年へとつないできたのだろう。
第1回の記事で、農機具小屋の引き出しから出てきた古い種の話を書いた。ムクナ豆もまた、そうやって人の手から手へ、受け継がれてきたいのちの一つだ。
畑での、ムクナ豆
春、四月から五月にかけて、ポットに種をまく。苗を育ててから、畑に植えつける。
植えつけてしばらくは、ゆっくりとした育ちだ。最初は一本のつるが、伸びるにつれて枝分かれしていく。やがて、三メートルから五メートルにもなる。
ゴーヤを育てるときのように、支柱を立ててネットを張り、そこへつるを這わせるのがいい。広い場所があるなら、地面にそのまま這わせて育てることもできる。
九月の半ば頃、花が咲く。深い紫の花が、房になって垂れ下がる。藤の花にも似た姿だ。
花が終わると、びろうどのような毛に覆われたさやが、房になって実る。
ムクナ豆は、完全に無肥料で育つ。
それどころか、夏の異常な暑さや、日照りが続いても、どんどん伸びていく。その姿を見ていると、ほかの野菜よりも生命力が強いことを、肌で感じる。
十五分、塩茹でするだけ
生のムクナ豆の食べ方は、驚くほど簡単だ。
さやから豆を出し、塩を入れたお湯で、十五分ほど茹でる。生の豆はやわらかいので、それで十分に食べられる。乾燥した豆のように、長い時間をかけて戻したり、煮込んだりする必要はない。
茹でると、豆は生のときの淡い黄緑から、やわらかなクリーム色に変わる。薄皮はそのまま食べられる。むいても、むかなくても、どちらでもかまわない。
茹で上がった豆を口に入れると――やわらかくて、クリーミーで、ほんのりと甘い。
正直に言う。もっと食べたくなる味だ。ここが、この豆のいちばん気をつけなければいけないところでもある。
もう一つ、私がしていることがある。茹で汁を捨てずに、大さじ一杯ほど飲むことだ。L-ドーパは水に溶け出すので、茹で汁にもその成分が含まれているからだ。
枝豆のようには、食べられない
マルシェでムクナ豆を買ってくれた人には、必ずこう伝えている。
「普通の枝豆のように、好きなだけは食べられない豆です」と。
これは、私自身の体で知ったことだ。
ある朝、あまりに美味しくて、つい五粒食べた。そのまま昼になり、ランチに頼んだ料理がテーブルに届いたとき、少し、むかつきを覚えた。
研究では、ムクナ豆を煮豆にすると、L-ドーパは生の豆の三分の一ほどに減るという。けれど、それは乾燥した豆を、時間をかけて煮た場合の話だ。生の豆は十五分ほどの塩茹ででやわらかくなる。だからこそ、成分がしっかり残っているのだと、私は実感している。
私は三粒から始めて、いまは四粒までなら平気になった。けれど試食では、一粒食べただけで「体が反応しているような感じがする」と言った人もいた。
感じ方は、人それぞれだ。初めての人は、まず一粒から試してほしい。
それから、大切なことを一つ。パーキンソン病の治療薬をはじめ、薬を服用している人や、妊娠中の人は、口にする前に、かかりつけの医師に相談してほしい。
美味しいものを、美味しく、長く食べつづけるために。量を知ることも、この豆とつきあう知恵の一つだと思う。
畑から、直接
スーパーの棚には並ばない豆がある。畑から直接手渡されることでしか、出会えない味がある。
生のムクナ豆は、まさにそういう豆だ。
次のル・マルシェは、十一月十五日(日)、十時から十六時まで。まだ、生の豆を収穫できる時期だ。房付きのムクナ豆も、できるだけたくさん持っていくつもりでいる。
京都まで来られない方には、発送することもできる。ヤマト運輸の「宅急便コンパクト」なら、送料も安くおさえられる。
房付きのムクナ豆(500〜600グラム):600円(税込)
送料は、お住まいの地域によって変わるため、着払いでお願いしています。
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生の豆を収穫できるのは、十一月の末頃まで。そのあいだだけの、季節の便りだ。
もし会場で見かけたら、まずは一粒、試してみてほしい。やわらかくて、クリーミーで、ほんのり甘い。あの味を、ぜひあなたの舌で確かめてほしい。
参考
郡山貴子ほか「ムクナ豆のL-DOPA含量および組織の変化に及ぼす貯蔵の影響」日本調理科学会誌 52巻4号(2019)
飯島久美子ほか「ムクナ豆の歴史と色の特徴」日本家政学会誌 71巻5号(2020)







